[NEWS] あの「iPhone」でも進出に苦戦する中国携帯ガリバーの壁

昨年6月に米国で発売され、わずか2カ月あまりで100万台も売れた米アップルの携帯電話「iフォン(iPhone)」。英国、ドイツ、フランスなどでもその絶大なブランド力を背景に現地のキャリアとの交渉を優位に進め、次々とサービスを開始している。世界最大市場のアジア参入も急いでおり、日本ではNTTドコモとソフトバンクと交渉中だが、中国における状況は他国と少々違っている。なぜならその相手は、名実ともに世界最強のキャリアになったチャイナモバイル(中国移動)だからだ。(肖宇生の「中国IT最前線」)



■チャイナモバイルに跳ね返されたiPhone

 チャイナモバイルによると、同社は昨年から続けてきたアップルとの独占販売権の交渉を暫定的に打ち切ったという。アップルが目標としている世界で1000万台の売り上げに必要不可欠の中国市場攻略に黄信号が点っているといっていい。交渉打ち切りの原因は、アップルが要求しているとされるデータ通信の20~30%の売り上げ配分をチャイナモバイル側が受け入れられないことにあるという。

 チャイナモバイルは条件次第での交渉再開を匂わせてはいるが、譲歩する気はさらさらないと思われる。今月上旬、その話が市場に伝わり、チャイナモバイルの株価は一時急落した。それでも同社は余裕たっぷりだ。

 4億人近いユーザーを抱え中国携帯市場の7割を押さえているチャイナモバイルは、2007年の純利益見通しが前年比28%増の114億ドルに上り、株価時価総額もそれまでトップだったボータフォンを上回り名実ともに世界最強の通信キャリアに成長した。さすがのアップルといえども条件交渉で圧倒的優位に立てるわけではない。

 いまでこそキャリア経由で販売される携帯端末が全体の2割程度を占めるようになったが、メーカーが端末の販売を担ってきた中国携帯市場においてはキャリアと端末メーカーの役割分担ははっきり分かれている。チャイナモバイルからみれば一端末メーカーに過ぎないアップルの利用料の分配要求は到底飲み込めないのだ。独自のモデルを主張するアップルとの間のギャップは簡単に埋められそうにない。

■主導権争いの軍配はどちらに?

 言うまでもなくアップルは他を圧倒するイノベーション力を持つ偉大な会社だ。それゆえに米国や欧州ではAT&TやO2、Tモバイルなどのキャリアから大きな譲歩を勝ち取った。しかしながら、それは米国や英国などの欧米市場で絶対的なプレーヤーが存在しないという市場環境によるところが大きい。

 日本でもアップル側が優位に立っているように見えるが、NTTドコモに最盛期の力があれば状況も一変するだろう。チャイナモバイルはユーザー数や財務体質などすべての面で、ライバルのはずだったチャイナユニコム(中国聯通)を圧倒している。第3世代携帯電話(3G)解禁に伴い中国の通信キャリア再編が行われてもその圧倒的な優位は簡単に揺るぎそうもない。つまり、自社の中核的な収益構造を、その一部とはいえアップルに譲るほどiPhoneに魅力を感じていないのだ。
アップルもほかのキャリアと組む手はあるが、近年常に分割のうわさが絶たないチャイナユニコムはもちろん、3G時代に恐らく移動通信免許を手にする固定通信最大手のチャイナテレコムにしても、巨人チャイナモバイルに挑むには心細いといわざるを得ない。結局、「傲慢」なアップルが「もっと傲慢」なチャイナモバイルの前に頭を下げることができるのか。次の一手に注目したい。

■行政の高いハードル

 実はチャイナモバイルとの交渉停滞以外にも、iPhoneの中国進出にはいくつか高いハードルが横たわっている。まず、そのビジネスモデルのコアである「SIMカードロック方式」だ。 iPhoneは契約キャリアのサービスしか使えないということになっているが、これは中国では制度上許されない。

 かといってアップルがそれを変更するのも大変だろう。なぜなら独占販売権や独占契約など、キャリアに対しての交渉武器がなくなるからだ。

さらに、iPhoneが搭載している多くのアプリケーションソフトは通信業界の主管官庁である中国信息産業部の審査や認定を受けないと販売できないという規定もある。地図検索やファイナンスツールなど多くのソフトは、使われるたびに通信料が発生するため、アップルがキャリアに売り上げ分配を要求する根拠になっている。しかし、中国の審査を通過できるかどうか、いまだ未知数だ。

 そして最後に無線LANの扱いだ。iPhoneの売りの一つはWiFi対応だが、中国の無線LANの標準規格はいまだ決まっていないため、国内で流通しているすべての携帯電話端末はWiFi機能をシャットアウトしている。iPhoneも例外ではないだろうが、アップルには受け入れ難いことだろう。

 これらはすべてiPhoneのユニークな特徴の根幹的な機能に関わる部分であるだけに、行政サイドとの交渉は困難を極めるに違いない。

■ライバル企業・グーグルの脅威

 中国進出を巡るこれだけの不利な条件がそろっているのであれば、アップルは焦らずじっくり取り組めばよいという考え方もあるだろう。しかし、アップルにはそうも言っていられない事情がある。そこには、アップルのブランド力に勝るとも劣らないライバルが浮上してきたからだ。ネットサービスを制圧し、携帯事業に布石を打ち始めたグーグルである。

アップルは技術やプラットフォームを完全にコントロールしてその独占的な地位を維持する狙いである。携帯開発のオープンプラットフォーム化やオープンモジュール化の今の潮流を別にしても、この2つのモデルのどちらが中国で受け入れられやすいかといえば、グーグルに軍配が上がるだろう。

 第一の理由は、グーグルは広告収益モデルであり、キャリアの利益を害しないことだ。第二に、開発プラットフォームやモジュールのオープン化により、これまで技術面で苦しんできた中国のローカル端末メーカーにも救いの手を差し出すことになるだろう。さらに、中国の携帯向けアプリケーションの開発も容易になるはずだ。中国の通信産業が一番喜ぶのがグーグルモデルであることは間違いないだろう。

 もちろん、iPhoneは先行優位もあり、独自のブランドや魅力を持っているのは言うまでもない。しかし自らのモデルに固執し過ぎると、参入に手間取っているうちにその先行優位を失う危険性もある。アップルは決してのんびり構えてはいられないのだ。

 アップルは既存のキャリアやメーカーを超えた自社だけのビジネスモデルを作り出した。既存の業界秩序をひっくり返す彼らの意気込みには敬意を払うが、果たして中国でそれができるだろうか?

 個人的には懐疑的だ。その「流儀」を変えない限り前途多難という気がしてならない。ボータフォンなどのメジャーがアップルとの契約を拒否するのがその前兆ではなければよいのだが。

 グーグルはオープンな携帯の開発プラットフォーム「アンドロイド」を無償提供し、すべての端末メーカーの参加を呼びかけている。携帯電話上のアプリケーションやサービスも、インターネットでのビジネスモデルを移植し、大部分のソフトは無償で利用できるようにするため、ユーザーの負担も軽減される。その対極にいるのがアップルだ。