自分の右手と左手で腕相撲したって、ちっともおもしろくない。腕相撲をしたければ、他人の手が要る。自分の眼を鏡にうつして覗き込んでみても、何も見えてこない。自分を知ろうとすれば、他人の眼が欲しい。だがクリーム・ソーダーをひとつ注文して、ストローを二本もらえば、それで他人と仲良くなれるわけでもない。書かれた言葉を読むと、すぐに誰が書いたか詮索したくなるのは、人の常だが、言葉はいつも万人の共有物だ。独り楽しむと書いてコマと読むが、コマも他人の手がなければ回らない。そして自分と他人の上に、雨は平等に降る。 谷川俊太郎