2008-09-30

[東北] 多重人格・シビルの記録より

偏狭、いなか者、鈍感は彼らのためのことばだった。13歳でも彼女のほうが彼らよりおとなだった。彼女は、彼らと自分は別の世界に住んでいるのだと確信した。シビルの両親に関しては、、、そう、父親はまあまあだったが、それでも彼には気がつかないところがあった。事実、彼は自分の新聞と設計図に夢中になっていて、なにかがおこってもそれに気づかないほどだった。

2008-09-29

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ビッキーは思った。シビルが私のことを知らずに、私がその名前をもらってきたあの想像上の少女のことをまだ考えつづけているというのは悲しいことではないか?シビルが、彼女の内部に住んでいる人たちの誰のことも」しら内でいるのはさびしいことだ、と。学校の第一日目に、これまで沈黙の観察を通じて吸収した、数学をふくむ全科目をみごとにこなして、ビッキーは自分の新しい存在に希望を抱いて家に帰った。

2008-09-28

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ペギー・ルーはシビルよりもはるかにこどもたちと同じだった。ビッキーは、確信はなかったが,これはあの死のあと何年かの娘ペギー・ルーがシビルよりもはるかに良くハッチー自身に似ていたからだと思った。また、シビルの復帰にあたって、ミセス.ドーセットがペギー・ルーではないシビルをちがった人間と見たのを観察するのはおもしろいことだった。

2008-09-27

[東北] 多重人格・シビルの記録より

時々、ビッキーは、メアリー・ドーセットの墓穴のところでペギー・ルーにあとをまかせたことを悔やんだ。だがビッキーは、そのときはーそしてその出来事を思い出すときにはいぜんとしてーほかの有効な方法がなかったt思った。それに、メアリー・ドーセットは愛すべき人ではあったが、自分のおばあさんではなかったし、自分があの気味悪い思慕とにみずからまきこまれるいわれはなかったのだと、自分を納得させもした。

2008-09-26

[東北] 多重人格・シビルの記録より

どこかへいっしょに行かないかと誘われると、彼女は隠しごとでもしているように、「だめよ」と答えた。そして走り去るのだった。まもなく、だれも彼女に、どこかへ行こうとか、なにかしようとか言わなくなってしまった。ビッキーは、ペギがみずからほかのこどもたちと疎遠になったのは、彼らがきらいだったからでなく、彼らと一緒にいると彼らがもっているものー兄弟や姉妹のいる家、こわがる理由がなにもない家ーを自分がもっていないことに怒りをおぼえるからであることを知っていた。

2008-09-25

[東北] 多重人格・シビルの記録より

「ダニーは行ってしまったわ」とビッキーはそれしか言わなかった。「それに、お父さんの言うことをきくのはいいことだからね」とハッチーは注意深くその判断から自分自身を排除して報告した。ビッキーは考えた。シビルが彼女の父親のしたことを知らずに済むのはいいことだ、と。「それじゃ、帰りましょう」とハッチーは言った。

2008-09-24

[東北] 多重人格・シビルの記録より

「おまえは、お父さんが2、3ヶ月前、ダニーの父親と話をしたのを知らないだろう。お父さんは、私たちと宗教のちがうマーテイン家のような人たちとおまえがつきあうのはよくないことだと彼にはっきり言ったんだよ」ビッキーは顔をしかめた。マーテインの家は、ハッチ—・ドーセットその人が改宗するまえと同じメソジストだった。ウイラードドーセットはメソジストと結婚したくせに、自分の娘がその同じメソジストと友だちになるのに反対した。なんたる偽善!だが、ビッキーはなにも言わなかった。

2008-09-23

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ドーセット家の2倍の大きさのステックニー家の前を通りながら、ハッチーは鼻であしらうように言った、「年寄りのステックニーは老いぼれだ。早く死んじまえばいいのに」。歩きながら、ハッチーはエラベーンズのことについて話し、「町のなかで、ある教師とけがらわしいことをした」んだから「当局によって逮捕されるべきだ」と言い、リータ・ステットについて話した。

2008-09-22

[東北] 多重人格・シビルの記録より

もし、荷物が着いていなかったら、ミセス・ドーセットは自分を非難するだろう。あの女ー彼女にとっては母親でないーのことはなにもかもしっているんだから、とビッキーは思った。シビルがなにとか彼女に対抗できるように何年も力をかしてきたんですからね。家に帰ってミセス・ドーセット煮荷物を渡すとすぐ、ビッキーは裏口の階段を降りて、ブランコのところへ行った。

2008-09-21

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ビッキーは、シビル・イザベル・ドーセットの障害に起ったことを、シビル自身がそこにいたかいないかにかかわりなく、知っていた。逆説的に、この世に住んでいたシビルにとっては時間が非連続的であったが、存在の奥深いところにいたビッキーにとっては、それは連続的だった。シビルにとっては気まぐれでしばしばブランクだった時間が、ビッキーにとっては恒常的だった。全部の回想をもっていたビッキーは、シビル・ドーセットのばらばらな内面世界における記憶記録装置の役割を果たしていた。

2008-09-20

[東北] 多重人格・シビルの記録より

しかし、あのときは、ほかにやりようがなかった。というのは、ビッキーは、影の力でいるときは過ぎ去り、積極的に介入するときが来たと気づいたからである。彼女は、効果をあげるには、明らかにその別離によるショックがあまりにも強いためにその任に耐えられなくなっているシビルから、肉体の支配権を取り上げなければならないことに気づいたのだった。

2008-09-19

[東北] 多重人格・シビルの記録より

「私にスマートぶってみせるもんじゃないよ」とハッチーは警告した。「ほんとうのことを言っているだけだわ」とビッキーは言った。「さあ」とハッチーは話題を変えた、「エルダービルから荷物が届いているはずなんだよ。郵便局まで行って取って来ておくれ」ビッキーは出かけた。

2008-09-18

[東北] 多重人格・シビルの記録より

とうとう、ビッキーは自分だけの目で、しかと世界を見、その全体を見、雲一つない、晴れた青空を見た。裏口の階段のところまで来て,ビッキーはそこから家のなかにはいることに決めた。「そこにいるのはペギー?」とハッチーが台所の窓から呼んだ。ちがうわ、とビッキーは心のなかで言った。ペギーでもシビルでもないわ。

2008-09-17

[東北] 多重人格・シビルの記録より

「じゃあ、、、」思春期特有のとまどいでことばが詰まり、彼はだまりこんだ。すると、身を引き、振り向いて、立ち去った。小さい頃からどんな偶然の肉体的接触もさけてきたシビルが、いまはうれしさのあまりうっとりとした。はじめ彼女は、ダニーがもう自分のそばからいなくなっていることさえ気づかなかった。そして、そのことに気づくと、彼女はおののき、心配そうにダニーをさがした。

2008-09-16

[東北] 多重人格・シビルの記録より

シビルがダニーに、彼女の母親が言ったことを報告したとき、彼はしずかに、「きみのお母さんは、きみを傷つけようと思ってそんなことを言ったんだ」と答えた。シビルはダニーがそんなことを言ったことにおどろいた。翌月、ダニー一家がウイロー・コーナーズを出る準備をしているあいだ、2人が時間がどんどんすぎてゆくと考えて前よりも熱心にいっしょになんでもしたという以外に、変わったことはなにもなかった。

2008-09-15

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ほかのだれにも背を向けて、彼女はダニーの方を向いた。ダニーは、ほかのこどもたちに障壁を構えることなしに、彼女が彼に対してするようにちゃんと彼女の方に向いていた。シビルとダニーはまったく自然に、しかるべき年齢に達したら2人は結婚するものと思っていた。シビルは、そうなれば、時間は少しはおかしくなくなるだろうと固く信じていた。

2008-09-14

[東北] 多重人格・シビルの記録より

しかし、ときどきは、シビルもいつも自分にまつわりついている奇妙な時間の問題を忘れることができたーそれは、正面階段の上に腰掛けてダニーと話をしているときとか、彼女がサンルームで遊んでいるときであった。サンルームでは、彼女は人形たちにシェイクスピア劇の登場人物ふうのコスチュームをつくってやり、パテー・アンをポーシャに、ノーマをロザリンドに、名前のない人形を『十二夜』の道化師にへんしんさせたりして遊んだ。

2008-09-13

[東北] 多重人格・シビルの記録より

また、ダニーがいなかったら、いつもコーナーズ・クリア紙に発表されて町中の人の目にふれる学校の優等生名簿から彼女の名前がきえたことで荒れ狂った母親との対立をさけることも不可能だったのちがいない。「おまえはいつだって載っていたんだよ」と母親は悲嘆にくれて言った。「こんなバカな子をもった私はいったいどうしたらいいんだろう。おまえはりこうなんだ。お前はただ私を傷つけようとしてこんなふうにしているんだ。悪い子だ。ほんとに悪い子だよ!」

2008-09-12

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ダニーはシビルが5年に〝進級〟してから経験した寂しさと頼りなさに対する解毒剤となった。どういうわけかわからないが、彼女は友建ちを失っていた。そして、彼女の正統派キリスト教の信仰がいつも彼女をじょかのこどもたちから引き離していたのだったが、たかも今になってはじめてみんながそのことに気づいたかのようだった。いまは、彼女の信仰の禁制のために、彼女にほかのこどもたちのすることがなにもできず、そこで、こどもたちはあの邪悪な仇名〝白いユダヤ人〟を彼女にあてはめていた。

2008-09-11

[東北] 多重人格・シビルの記録より

葬式の花を配っていた少女の漠然とした記憶が刺激となって、シビルはダニーに様子がちがうすべてのことをきいてみる気になった。いろいろな家が建てられていた。いくつかの店は持ち主が変わっていた。町は同じではなかった。シビルは、ダニーにならそのうちのなにか、あるいはすべてについてきけると思った。

2008-09-10

[東北] 多重人格・シビルの記録より

ダニーがこう言ったとき、シビルは、まるで夢であったかのように、シビルと呼ばれているがシビルではない1人の少女がダニー・マーテインといっしょに彼女のおばあさんの葬式の花を町の病気の人や貧しい人のところに配りに行ったのを思い出した。夢のなかでのように、自分がその少女を見ていたのを思い出した。あたかも自分がこのもう1人のシビルのそばでいて、いっしょに歩いていたかのように思われた。

2008-09-09

[東北] 多重人格・シビルの記録より

冷たい、厳とした大理石像のある学校のメイン・ロビーで、ダニー・マーテインがシビルに声をかけた。シビルより1つ年上のダニーはとても仲のよい友だちだった。2人は、黒いシャッターのある白い家の正面階段に座って何度も長いことを話し合ってきた。彼女はほかのだれよりもダニーにはいろいろ話すことができた。

2008-09-08

[東北] 多重人格・シビルの記録より

昨日は存在しなかった。シビルは墓地にいたとき以外のことはおぼえていなかった。彼女にわからないことは、ほかの人たちが自分が知っていないということを知らないことだった。ミス・ヘンダーソンは相変わらず、自分がそのときちゃんとこの机に座っていたかのように昨日の事について話しつづけた。でも、自分はここにいなかった。昨日はブランクだった。

2008-09-07

[東北] 多重人格・シビルの記録より

これはまったく新しい経験ではなかった。これまでにも何度か、彼女には、ミス・ヘンダーソンが黒板にあの数字を消したときのように、時間が消されてしまったように思われたことがあった。だが、こんどのはもって長いようだった。いままでとくらべてずっと多くのことが起り、シビルにはわからないことがずっと多かった。

2008-09-06

[東北] 多重人格・シビルの記録より

シビルは頭を横に振るだけだった。「さあ、シビル」と先生は言った、「いくつになる?」。ほかのこどもたちが声をあげて笑った。キャロラインシュルツがくすくす笑った。「シビル」と先生はなおもつづけた、「その答えはいくつか言ってごらんなさい」「わかりません。わからないんです」シビルの声は消え入りそうだった。

2008-09-05

[東北] 多重人格・シビルの記録より

彼女の母親はミス・ヘンダーソンが彼女の先生であることを知っていたが、シビルはまだ自分は3年生だと思っていた。まず3年生のほうに言ってみることにした。ミス・サーストンが彼女の机に座り、試験答案を整理していた。「よく訪ねてきてくれたわね」と彼女はシビルを見ると言った。「前の生徒が戻ってくるのって好きよ」戻る?シビルは5年の教室に向かった。慎重に教室にはいり、よく確かめてその朝自分が気がついたときに座っていた席に戻った。

2008-09-04

[東北] 多重人格・シビルの記録より

「だれだかよくわかっているじゃないか」と母親は答えた。そんな名前をきいたこともなかったシビルは、そのことをあまり大きく考えるのがおそろしかった。彼女はただ、この謎めいた日に彼女をとりまいているわけのわからない出来事の具体的なシンボル、なに1つみおぼえのない着物のはいっている驚くべき衣装棚のなかをじっと見つめていた。

2008-09-03

[東北] 多重人格・シビルの記録より

彼らは再びもとの古い家に住むようになり、祖父もいっしょに2階の自分の部屋に住むことになった。それでおじいさんが自分たちといっしょに生活するようになった、らしかった。祖父が自分の部屋に行くために席を立った。「元気を出すんじゃ、シビル」と彼は言った、「微笑みを忘れず、げんきでさえいれば人生にこわいものはない」。彼は食卓の角にからだをどしんとぶっつけた。

2008-09-02

[東北] 多重人格・シビルの記録より

そのときシビルは母親をまっすぐ見ると、じぶんでもかなり思いきったことを言った。「お母さん」と彼女はきいた、「私いま何年生?」「私いま何年生?」と彼女の母親はおうむがえしに言った。「なんてバカなことをきくのよ」だれも彼女に教えてくれず、彼女がどんなにそれを知りたくてあせっているかもわかってくれなかった。

2008-09-01

[東北] 多重人格・シビルの記録より

「カトリックの大統領なんか絶対にでるはずがないわ」とハッチーが言った。「わしの言うことをおぼえておくことじゃ」と祖父が言った。「そのときはきっと来る。油断をしていればローマンカトリックの連中がきっと世界を支配することになる。連中はこの世の終わりが車でわれわれを無限に苦しめるじゃろう!」