2007-12-31

[東北] 友人から届いた小説

何がうれしいのか、彼と彼女は弾むようにして通り過ぎていった。すれ違いざま、甘やかな風に頬を打たれた。痛痒いような、うずくような、もうとうに忘れてしまった女の感情が四十をみっつ、よっつ超した小リンの胸にわき上がってきた。半月ほど前のことだった。見知らぬおじ様が一人,肩を怒らせて,スナック水車のドアを開けた。

2007-12-30

[東北] 友人から届いた小説

それからは気持ちが浮き立つようだった。小ゑんは、私の送る人は鳩野先生に佐久川さんでしょう、えーと、あとは、、、とさっそく目もしだした。歯の悪い人もいるかもしれないから、甘納豆とセットにするのはどう?歯の弱い小ゑんが、硬いものはどうもねえ、とつぶやくように言っている。

2007-12-29

[東北] 友人から届いた小説

「そろそろですよね、お歳暮は。決まっているの?」「考えてはいたんです。でもうちは、いろいろあって、ゆとりもなくて」「結構、かかるものね。まったくなしだとお客にいやみを言われそうだから『副豆』というのはどうかしら」「ふ、く、ま、め?」「そう、お歳暮は少々のことでは太刀打ち出来ないでしょうけど、節分に豆を配るのなら、なんとかなるかも、、、」

2007-12-28

[東北] 友人から届いた小説

薄やみの広がる道を水車へ向かって歩きながら、あのドライブや美術館めぐりはなんだったの?と訊ねそうになった。だが、いい気になっていた小リンを,社長はお見通しで、がっかりしたのかもしれない。山口社長が何を考えているのか知れず、検討もつかないが、男の気持ちは女以上に複雑でデリケートなのだろうと思う。

2007-12-27

[東北] 友人から届いた小説

そうしてさらに、事務所を構えたほうがいいだろうか、そうなると事務所は小ゑんにやらせるのがいいか、いや多田へ、いやいや全く別の仕事としてーなどとこれから先の忙しいであろう日々が思い描かれ、膨らんでいく。自然に込み上げてくる笑みを,小りんは抑えようとしても抑えきれない。

2007-12-26

[東北] 友人から届いた小説

究極のワインと呼ばれるロマネ・コンテイは「ルイ一五世(在位1715〜74)の時代、当時のフランスで最高のワインを生むのは、ロマネのぶどう畑だった。この畑を手に入れようと、王の籠后の恨みを買って失脚した、、、、」これが始まりのようだという。

2007-12-25

[東北] 友人から届いた小説

レストラン.グラシア二は、明治に建てられた外国人住居グラシア二邸をそのまま利用したフランス料理店である。店まで迎えに来てくれた山口社長とレストラン向かって、北野の上り坂をゆっくり歩いた。昔の人は、はるばる訪れた秋の雲と夏の雲がなにやら語り合うような空を「ゆきあいの空」と言ったそうだ。

2007-12-24

[東北] 友人から届いた小説

しかし、一石三鳥は、目の回るような忙しさであった。午前中にスナック水車の掃除を済ませ、午後から不動産学院へ通う。店を終えて帳簿をつけ、お礼状もその日のうちに書かなければならない。へとへとのある日、また凌子の顔がうかんだ。貧乏暇なし、これが凌子の言う「敏忙」なのかと思った。

2007-12-23

[東北] 友人から届いた小説

一石三鳥を狙う。それしかないようだ。ゴルフの話が骨折でお流れになってから、山口社長は何を思ってか、やたらと親切である。小リんも、悪い気持ちはしない。もちろん水車のための山口さんである。そこで、考えた。触れなば落ちる風情でいこう。一銭さえ超えなければ、デートくらい、、、、。山口社長も同じ思いだったかどうか、彼は暇を作っては運転手付きのドライブや美術館へ、夕食にとさそってくれるようになった。

2007-12-22

[東北] 友人から届いた小説

レントゲンの写真には、六番目の肋骨がじぐざく模様にひび割れ、真ん中あたりで何ミリか完全に離れて映っていた。治療を終えて、家へ戻るタクシーの窓から、ふと空を見上げた。大きな入道雲がゆっくり流れてゆく。百万円の束も天空へゆらり、ゆらりと舞飛んでいった。

2007-12-21

[東北] 友人から届いた小説

それに、山口社長はゴルフ歴二十年余り,ハンデは十だと聞いた。シングルプレイヤー一歩手前の腕前である。話にもならない、と思ったが「百万円」が耳にへばりついてしまった。頭の上には、銀行預金通帳の残高数字がのしかかっていた。借金返済のことしかあたまにない小りんは、水車の中でも余裕のなさがにじみでていたのだろう。つい、乗せられる。

2007-12-20

[東北] 友人から届いた小説

夏のある日、小鈴は外科病院にいた。「大肋骨の疲労性骨折です」と目の前の若い医師に告げられた。さもとうぜんとばかりに、「その年齢で無理をするからですよ。よく見て(医師は立ち上がって,ゴルフスイングの構えをし)、右肩をまわす、こう、ゆっくり振るの,力じゃない,力は必要ないんです。このごろ、こういう患者が多くてねえ、、、、。」そばにいた看護婦がぷっと吹き出した。

2007-12-19

[東北] 友人から届いた小説

灘沖氏が若いガールフレンドと来店したのは、さらに翌週のことである。「はるな」という学生気分の抜けきらない元気はつらつとした女性だった。仕事はまだ駆け出しですが、と彼女は首をすくめながら放送局名を告げる。入局二年目のTVアナウンサーらしい。どうりでちょっと雰囲気の違う人だと思った。歯切れのよいもの言い,化粧のうまさといい、全体がスマートだ。

2007-12-18

[東北] 友人から届いた小説

軽部氏は、少々うるさ型らしいが、篤実な方のように見て取れた。もし、妹の主人・多田の借金問題でもめるようなことや何か起きたら、相談に乗ってもらおう。近くに話のできる確かな人がいる、そう思えるだけで、小リんは安堵し,ほっとした気持ちが広がって行くのを感じた。その二、三日後には,山口社長は後任会計士と一緒だった。

2007-12-17

[東北] 友人から届いた小説

福々しい頬の上にのせた眼鏡の奥は半眼のような細い目だ。その細い目の奥に何が映っているのだろう。好きなことは、、、、好きな色は、、、、どんな男性なのだろう。とにもかくにも、一本二十万円のこんなに高級なお酒をキープしてくれるなんて、体が震えるほど、ありがたい。水車始まって以来の最良の夜になった。むっとしたり、よろこびでくらくらしそうになったり、頭の中でトライアングルがきんこんかんこんと鳴り響いているようだった。

2007-12-16

[東北] 友人から届いた小説

棒立ちのまま,名刺と山口社長の顔を何度も見比べていると、小ゑんが脇腹を小突いた。われに返って、あわててお辞儀をした。「いらっしゃいませ。きょうは水車へお出でいただきまして、ありがとうございます」「まあ、そう、かしこまらんと。ぼくのことは隣の楢尾に任せてあるから。聞いて」言われるままに、楢尾さんへ挨拶をし、名刺をいただいた。

2007-12-15

[東北] 友人から届いた小説

内心むっとしながら,そのお客を見た。たしか、どこかで会っている、、、はて?尋ねようとする小りんに、恰幅が、「不動産屋です。うちは,あのとき,断らせてもらいましたがね」三軒目の不動産屋と契約なさったんでしたね、と見ていたように言う。お供のやせ気味の男はその横でだまて聞きうなずくだけだ。業界同士、何もかも筒抜けらしい。

2007-12-14

[東北] 友人から届いた小説

手短に、話そうとすると、よけいつっかえる。凌子はぼそっと,面倒くさそうに「びんぼう、けっこうじゃないの」と言った。「びんぼうといっても、私のいうのは、びんは敏、ぼうは忙と書くの。死ぬまで敏忙がいいよ」言っている意味がまったくわからない。どういう商売のやり方だったら、すぐにでもお金になるのか,その方法を教えてほしかったのに。

2007-12-13

[東北] 友人かアッラ届いた小説

結婚から七年目を迎えたある日、訃報がはいった。F氏がニューヨークで突然死をしたと。脳溢血で倒れたとの連絡に,取るものとりあえず飛行機で駆けつけた。実際は、彼が浮気の最中に昇天、うら若い金髪美女の上で絶命したのであった。立腹のあまり,凌子は捨て置こうと思ったらしい。が、それもできない。

2007-12-12

[東北] 友人から届いた小説

そのころ聞いた話によると、彼女は秋田の地方都市で産まれたものの、大学から東京で暮らし、大学卒業後、杉並区にある小学校の教諭をしていたそうである。父親は戦死していて、母親と弟の三人暮らし。姉が一人いるがすでにけっこんしていたので、家族の生活は凌子の肩にかかった。あまりの生活苦から、赤坂のナイトクラブ「コパカ・パーナ」へ転身したという。

2007-12-11

[東北] 友人から届いた小説

この際、「貧乏神」を聞かされた件はとうに過ぎた話、こだわることもない。オーナーにはお客になってもらおう。そしてこれから先、コモ・ママを水車でも相応に扱うことにしよう。彼女が寄ってくれたら、大事にしなければと思う。夜が更けた。水車にはお客の足音は響いて来なかった。不安がまた募る。誰か相談出来る人は,,,考えていてふと従姉の顔が浮かんだ。

2007-12-10

[東北] 友人から届いた小説

俺の貧乏も久しいものじゃが、貴様におられたのでは金の出来なんだのも、当たり前、友達に義理を欠いたのも、女房に逃げられたのも、みな貴様のおかげじゃといえば、それは気の毒、俺も別におまえに恨みがあってお前の家にいたのではなく、ツイ居心地がよいので長滞留したまでのこと、それでは埋め合わせに金儲けをさせてやる。

2007-12-09

[東北] 友人から届いた小説

三本目のビールを空けると、水車にお客がいたらつれだそうと思ってきたのにがっかりした。仕方がない、次へ行くか、という顔つきで腰を上げた。送り出した後、小りんの周りにいる女性は、なぜ貧乏を呼び込んでしまうのか。金満家を見つける目は、自分にも彼女たちにも備わっていないのだろうか、ため息混じりに思っていると、以前、聞いた話を思い出した。

2007-12-08

[東北] 友人から届いた小説

いや、スナックのママなんかより国税局税務捜査官・マルサの女をやらせたらいい仕事をするかもしれない。そう思わせ目つきで彼女はボトル棚を探っていた。ふうーとタバコの煙を吐き出して、「おたくも、暇なんやねえ」哀れむように言った。呆れてものも言えない。どんなに暇でもわたしはよその店へは行かないわ、小りんは声に出さずに答える。

2007-12-07

[東北] 友人から届いた小説

いらっしゃいませ、といい終えるのも待たずに「ビールでいいわ」とのたもう。ビールにしてくださいでもなく、お願いしますでもない。せめて、ビールがいいわ、と言ってくれたら、どんなに奥ゆかしい女性に見えることだろう。高感度もぐんと上がること請け合いだ。待ちくたびれているところに、客が隣のママで、小りんはささいなことにも突っかかりそうになる。

2007-12-06

[東北] 友人から届いた小説

「なら、おまえが書けばいいじゃないの」また口がとんがった。実の姉妹となると遠慮会釈もない。しかし、同じ人のことを考えていたのだろうか?ふたりでつんけんしていてもしようがないので、佐久川本部長の話へ持っていく。噂をすれば影が、、、、と言うから盛大に噂したら現れてくれるかもしれない。

2007-12-05

[東北] 友人から届いた小説

もちろんお金はないよりあったほうがいいけど、顔の広い、人脈はもっと広い!そんなおじいちゃんが」「お姉、甘いわ。そんなご隠居がいたとしても、なじみのところにきまってるわよ。、、、、でも、もしもいたら、まずあたしが先に」「あのねえ、ご隠居さんはがんばっている年増から先に、たすけてくれるはずなの」「あほらし、きれいごとならべて。お姉はいつもそうなんだから、、、お金持ちよ、お金持ちがいちばんいい」

2007-12-04

[東北] 友人から届いた小説

二月と八月は閑古鳥の鳴く月で売り上げが激減するのだと。その根拠がどこにあるのかはっきりとは分からないらしいが、大きなクラブや老舗の店と違って、新規の吹けば飛ぶようなスナックなどが特にあおりを食うらしい。ところが、毎年乗り越えるのに躍起だったのが、ここ二三年、好景気の波に乗ってかニッパチでも三宮は繁盛しているという。

2007-12-03

[東北] 友人から届いた小説

その縦の数十メートルほどの間に、飲食店がぎっしり立ち並んでいる。大きい店小さい店、鉢巻き巻いたお兄さんがたこ焼きを焼きながら売っていたり、真っ黒に塗りつぶされたドアだけのちょっと不気味な店があり、元宝塚スターの華やかな店とひしめいている。東門筋に出店をあこがれた女たちの夢の界隈でもあるのだろう。

2007-12-02

[東北] 友人から届いた小説

三宮駅までの十数分の間、電車の窓から景色を見ていた。午後四時前の西に傾いた日差しは、六甲山や神戸の街、遠く見え隠れする神戸港を茜色に染めている。神戸は山と海が間近に迫る箱庭のような街で、百万ドルの夜景といわれているけれど、夕映えのさしかかる切なげなひと時も悪くない。

2007-12-01

[東北] 友人から届いた小説

言うに事欠いて、「僕の客には半額」などと、、、多田本人がこれではあきれるばかりである。平木と違って、多田は金魚の糞というより、ひもに近い。すぱっとは切れないやっかいなゴムのようなヒモだ。貧すれば鈍する、である。小りんは、いったい何しに三宮へ来たのだろう、と情けなかった。