2007-12-31

[東北] 友人から届いた小説

どないもこないも、小りんにはなんのことかさっぱりわからない。どこの誰の話やら思い当たる節もなかった。おじ様は不動明王そっくりで、大きな火炎の光背に赤々と染まったごとく、まっ赤な顔に牙をむき出しの感じでわめいた。「わいの女」という人は、水車のはす向かいで似たようなスナックを構えているという。

2007-12-30

[東北] 友人から届いた小説

晩秋の宵のことである。いつものように店へ向かって、三宮駅から北野坂通りを歩いていると、ばったり会った。おじ様とわいの女である。二人よりそって隠すようにしているが、わいの女の右手はおじ様の左手にしっかり包まれていた。立ち止まってしまった小りんなど、眼中にもないようだった。

2007-12-29

[東北] 友人から届いた小説

「あの、鬼は外、福は内、のあの豆?」「ええ、そう、豆の種類や送り方はデパートへ行くと喜んで教えてくれるはずよ誰にどんな豆をおくるのかは、小ゑんとどうぞ。時期がずれるから、きっと、目立つわよ」考えるだけで、楽しいわね、今夜は人を待たせているからまたゆっくり来るわ。そう言ってはるなはビールを飲んだだけで帰った。

2007-12-28

[東北] 友人から届いた小説

ーからんころん,ドアベルがそっと鳴った。はるなだった。キャメルカラーのスーツに深い緑色のブラウスが秋の装いにふさわしく、よく似合っている。結わえたロングヘアーをブラウスに合わせた髪飾りで留めている。「はるなさん、今夜もきれいね。まるでイチョウの妖精みたいですよ」「ありがとう。そのお礼でもないけど、ひとつアドバイスしてもいいかしら」はるなにしては、もじもじしながら話す。

2007-12-27

[東北] 友人から届いた小説

ほんとうに感謝している。もしいま、この場で誘われたら素直にうなずいてしまいそうな気がする。一つの達せ期間とこれからの明るいはずの未来が小りんを浮き足立たせていたのだろう。しなだれかかるように、山口社長の目を覗き込んだ。すると「小ゑんちゃんが、待っているよ」そう言って、社長は立ち上がった。

2007-12-26

[東北] 友人から届いた小説

山口社長は,ワイングラスを掲げながら、「うちの社員は六割がやっとだったのに、酒場の女が、若くもない頭で、一度で合格とは、、、、」胸の内をあらわにする。小りんの掌の中で、ルビー色下ロマネ・コンテイがひときわ輝く。ワイングラスから立ち上がる香りとともに、物件案内をしたり,重要事項説明書うぃ読み上げている自分の姿が揺らめく。

2007-12-25

[東北] 友人から届いた小説

レストランの前に着き、蔓バラをはわせたアーチ型の門をくぐる。そこから続く石畳を踏んで少し行き百亜の洋館グラシア二邸のドアを社長が開けた。ドアのきしむ音と同時に神戸牛の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。黒服にうやうやしく案内されながら、ちらと留守番の小ゑんの姿がよぎったがが、それもつかの間、茜色のドレスを着たピアニストの奏でる「ラヴミーテンダー」に迎えられ、小りんはわれを忘れた。

2007-12-24

[東北] 友人から届いた小説

やがて夏、試験も間近になり、山口社長は、「難関なんだぞ。そんなに毎晩、飲んだくれて、大丈夫か」あきれ顔で言う。やる気があるのかないのか、まったく、いまどきのやつ、、、、社長の顔にはそう書いてあった。結果は、なんとか合格できていた。祝いに、異人館通りにあるレストラン.グラシア二での晩餐はどうかロマネ.コンテイをあけよう、と誘われて、どうして断れるだろう。

2007-12-23

[東北] 友人から届いた小説

宅健の試験とは、合格率十六パーセントで相当勉強がいるらしい。山口社長へ、受験を口実にしたら、角をたてずにデートを断れるのではないか?そうだ、受験という手があった。もしも、運良く合格の暁には不動産業でも稼いで借金とはおさらばできるだろう。社長へは「難しくてたいへんなの。水車に来て、励ましてちょうだい」とおねがいしよう。よって、店は安泰、小臨模安全、一石二鳥いや三鳥だ。

2007-12-22

[東北] 友人から届いた小説

その日の宵である。カウンター越しの山口社長は,無様な格好の小リんを見るや笑い出そうとし、つぎには笑いを押し殺そうとした、だが、こらえきれずに笑いはじけてしまった。そうして、「真に受けたのか」という目を向けてきた。冗談だったのかー、百万円もゴルフがおもしろいといったのも、口からでまかせだったというの?今度こそ、ほんとうに、小りんは息が止まるかと思った。ネオンの下での話は、骨が折れる、、、、。

2007-12-21

[東北] 友人から届いた小説

スクールで週一回のレッスン、家の近くにある山手ゴルフセンターの打放場へ行き、毎日、午後に三百球を打った。そして家では素振りとひたすら練習し続けた。それから三ヶ月もたたない夏の日、打放場で、息も止るかの痛みに襲われたのである。這うようにしてタクシーに乗り、外科病院へ走ってもらった。

2007-12-20

[東北] 友人から届いた小説

「ゴ、ル、フ、、、」わたし、ゴルフは知りません。プレーしたこともないんです,と口を開きかけたら、「私も、お供しますから」楢尾部長が、しゃちょうの隣の席から静かに言い添えた。この人は口数こそ少ないが、タイミングよく合いの手を入れる。ゴルフは時間と経済にゆとりのある日との遊びだと思っている。小りんには、無理だ。

2007-12-19

[東北] 友人から届いた小説

アナウンサーの仕事はストレスがたまるのだろうか。飲んではしゃぎと、見ているこちらのほうが心配になるほどよく飲む。灘沖氏はさておき、酔ったふりをして誰彼となく話しかけてしまう。彼女に話しかけられたら,男性が誤解し、はるなのことを本気になるかもしれない。そうしてストーカーされ、怖い重いqをするのではないか。そんな危なっかしさが彼女には見え隠れしている。老婆心だとわかっていても、気をつけなさいよ、と小りんはくどい。

2007-12-18

[東北] 友人から届いた小説

山口社長が「あいかわらずやなぁ、ようリサーチして」そんな面持ちで灘沖氏の話を聞いている。楢尾部長もいつになく頬が緩んでいる。春が近いといっても汗ばむほどの奇行でもないのに、灘尾氏はせわしないくらい顔や首の汗を拭く。たんに暑がりかもしれないから、ときどき、おしぼりを替えるように気をつけよう、そう小ゑんへ目配せすると、ほんとに、あんな汗っかきあまりいないわね、と小ゑんが小声で返してきた。

2007-12-17

[東北] 友人から届いた小説

軽部弁護士は、牛蒡に似た地黒でおそ表の顔に笑みを作りながら、名刺を手渡してくれた。そして、弁護士事務所用に別に一本キープをという。「こちらは普通のお酒を。今は、社長の会社ほどではないんでね。いつかは,社長のようになろうとー」弁護士は法廷以外ではあまりしゃべらないものと思っていたが、黙って聞いていると閉店時間を過ぎても話し続けそうな人だった。山口社長も楢尾部長も、また始まったか、そんな感じで聞き手に回っている。

2007-12-16

[東北] 友人から届いた小説

「社長,どうでしょう。それとも,ブランデーのほうが」「いや、いい。三十年のを、僕は水割りにしてくれ」「私も同じで」水割りを作り,二人へお出ししてしまうと、一瞬,沈黙した。初対面に近いから,何を話していいのかわからない。見るでもなしに見ていると、楢尾部長と話し始めた山口社長の口元は受け口気味で年の割に唇の色が赤い。

2007-12-15

[東北] 友人から届いた小説

いや、正直どう答えていいのか解らなかった。名刺をもらい、見る。山口禮二、不動産会社社長、神戸市中央区ー。三つ揃いの濃紺のスーツ、眼鏡に手をやる癖があるらしく、手を動かすたびに袖口から高価そうな時計があらわれる。続いて、カフスボタンがキラリと光る。六十代後半だろうか、、、、。

2007-12-14

[東北] 友人から届いた小説

翌週からは三月という日で、水車のネオンにスイッチを入れて一時間もたっていない時間だった。やせ気味のお共を従えたこの大きくて肩幅の広い中年は、カウンターの真ん中に腰を掛けると、開口一番、「今晩は、どうですか,お店は?」妙に馴れ馴れしいもの言いだ。

2007-12-13

[東北] 友人から届いた小説

彼女自身強くならざるを得なかっただろうから,仕方のないことだと思う。しかし,水商売に関しては大先輩である。もはや、頼れるのは彼女しかおらず、彼女にこき下ろされようと教えてもらうしかない。翌日、凌子へ電話を入れた。ご無沙汰を詫びながら、ああでもないこうでもないともごもごやっていると、さっさと、はっきり言えばどうだ、とやらされた。

2007-12-12

[東北] 友人から届いた小説

ホステス仲間に、後に東南アジアのとある国の第三婦人に迎えられた人物もいたという。そのとき、凌子も候補者の一人であったらしい。恥ずかしそうな顔をして、そう言ったのを,小りんは覚えている。その後、凌子は縁があって、K通信社に勤めるユダヤ人記者F氏と結ばれる。

2007-12-11

[東北] 友人から届いた小説

玄関前に積もった雪が陽射しと真冬の澄んだ空気に跳ね返されて白屋銀色に光りながら踊っていた。その白銀の世界に,茶色のてらてらと光る毛皮はあまりに不気味で異様に映り,小学生の小りんは凌子のそばへ近寄ることができなかった。後年、ときおり凌子の家へ、小りんは遊びに行くようになった。

2007-12-10

[東北] 友人から届いた小説

それにしても、あのオーナーはどういうつもりで,私に教えたのだろう。なんとなし,気にかかる。そうだ、御一献献上、水車へ甥でいただきたし、、、と手紙を差し上げてみよう。オーナーは生まれてこの方一度も,世間で働いたことがないと言った。親の財産の管理に終われて働きに出る暇がなかったようだが、謙遜だろう。オーナーに来ていただいたら、水車もぐんとよくなるかもしれない。

2007-12-09

[東北] 友人から届いた小説

ほんとうの『貧乏神』は「上方話」に出て来る。オーナーのとは少し違っていた。落語大百科では、『大掃除をしようとして、床板をめくると、したに妙な物がいる。貴様は何じゃというと、貧乏神じゃという。いつごろからこの家にいるとたずねると、ずいぶん古いことじゃとのこと。それでわかった。

2007-12-08

[東北] 友人から届いた小説

コモ・ママは、西区のしらゆり台に住んでいると、所在なげにもらした。ご主人のやっていた土建業が左前になったので開業したそうである。水車より二年早い開店だという。ご主人がときどき仕事関係の人たちを接待して飲むのはいいが飲み代を払ってくれないので困るとか、タクシーで通勤していて片道三十分はかかるので大変だと、ママの口は止らない。

2007-12-07

[東北] 友人から届いた小説

これもたぶんシャネルだろう、濃いオレンジ色の口紅がぬめぬめと光る。ビールを飲み、ケントを吸って吐き出し、合間にしゃべり、、、、小うるさく動く唇。唇だけでなく目もすばやい。グラスを持ち上げながら、アイラインを太く書き描きこんだ両目を水車の隅々へと走らせる。まるで、コケットリーなアライグマ。

2007-12-06

[東北] 友人から届いた小説

「大丈夫よ。お姉なんか、どう化けたって好かれないから」まったく、なんてことを、と言いかけたところへからんころんとドアベルが鳴った。来たの?えっ、ほんとに?喜び勇んでドアのほうを見ると、隣のスナック、プチ・コモのママである。顔が見えたと思ったら、「お邪魔しまあす」とつかつかやってきてカウンターの真ん中に掛けた。

2007-12-05

[東北] 友人から届いた小説

小ゑんの苛立がわからないでもないが、ぎすぎすとした切り口上がこれからもつづくのだろうか。いったい、そうなるのかと胸でため息をついてしまった。それにしてもと、佐久川さんの顔を思い浮かべてみたりする。本部長から取締役昇格のうわさが聞こえてきていたから、仕事が忙しいのだろう。そう思った瞬間、小ゑんが、「お姉のお礼状の書き方がいまいちなんじゃないの?」ぎょっとするようなことをいう。

2007-12-04

[東北] 友人から届いた小説

水車は、好景気とも階下とも縁遠い。三宮中の店で二次会、三次会と宴が続き、花びらのようにひらり、ひらりとお客が飛んできてくれるといいのに、、、、。「近くに、ご隠居さんはいないかなあ。どんな相談にも乗ってくれて、どんぴしゃりの答えを出してくれるご隠居。

2007-12-03

[東北] 友人から届いた小説

けれどこの年、平成元年・巳年の東証大発会では三万円強と最高値を更新したし、一月下旬には四十七都市の地下路線価格の引き上げ率は最高二十八パーセントもアップと新聞紙上で数字が踊っていた。世間の景気はいいようである。酒屋の配達員から、商売では俗にニッパチというと教えられた。

2007-12-02

[東北] 友人から届いた小説

本場らしく黒毛和牛の立ち姿をかたちどったものや湯気を上げて更にのっているステーキ、炭火焼き肉など、神戸牛の看板がさすがに多い。三分と行かないうちに、東門筋、生田神社、東急ハンズ・神戸店などの看板が目についた。東門筋は南保国通る夜の三宮のメインストリート。生田新道が横だとすると東門筋は縦の通りである。

2007-12-01

[東北] 友人から届いた小説

スナック水車が北野坂通り裏の小路に開店して半年、毎日があたふたと過ぎた。小りんは三宮界隈をほとんど知らない。そこであたりを眺めてみようと思い立ち早く出たのである。春先の風は冷たい。住まいから阪急六甲駅まで数分歩いただけで、体が縮こまった。くすんだ小豆色の阪急電車に乗り込むと、車内はヒーターがよく効いている。蛇腹がゆるゆると伸びていくように縮かんだ手や足が温められて行った。