2007-11-30

[東北] 友人から届いた小説

だが、当の多田の借金を返すためである。閑古鳥が鳴いたら値を下げ、繁盛してきたら値をあげるのか?そんなことで商売が成り立つと多田は本当に思っているのだろうか。
ポリシーなどと口幅ったいことはいわないが、どんな小さな会社や店であっても、その方針はおいそれと変えないはずだ。

2007-11-29

[東北] 友人から届いた小説

額に垂れた長髪の下の目が、ときどき抜け目なさそうにぎらりと光って驚くときがある。趣味はツーリングだというので、釣り三昧のことかと妹に訊くと、オートバイで仲間と飛ばすことだと笑われた。ヘルメットひとつに百万円もかかるそうで、勝手にさわったりするとものすごく怒るらしい。
オートバイどころではないだろうに、そもそも、四十にもならない平凡なサラリーマンが保証人になるのがおこがましい。自分の借金をそれこそ死んだ気になって返すのが第一じゃないか、そう思うと腹が立って仕方がない。そんなある日だった。

2007-11-28

[東北] 友人から届いた小説

「死期は序を待たず、、、覚えずして来る」といったのは吉田兼好という人だったろうか。どんな人にも、襲いかかる死。小りんは、水車の中で死んでいくしかないだろう。店でぽっくりと、それが自分にふさわしい逝き方に思える。けれど、死は準備のできないうちに迎えることになってしまうらしい。望みどおりには逝けないようだ。

2007-11-27

[東北] 友人から届いた小説

佐久川さんの紹介で、お客は少しずつ少しずつ広がりだした。お店は活気づき、これで波に乗れるのではないか、そう思ったとたん、昭和天皇が崩御された。昭和六十四年一月七日午前八時過ぎだという。三宮一帯はその日から、底なし沼の中に沈んだ。それでも、水車は年中無休を謳っているので、いつもと同じ時間に店を開ける。

2007-11-26

[東北] 友人から届いた小説

もっと難しいのは、お客の話しだすまで待つ、その間合いである。ついこちら側の口数が多くなる。そうしたある日、いきなり頭から水割りを浴びせられた。氷のかけらが襟元に引っかかり雫がたれて首の冷たかったこと、いまだに忘れられない。きっと、うるさすぎたのだろう。

2007-11-25

[東北] 友人から届いた小説

仕方なく、通信講座のペン習字を習う。毎回、ことごとく朱をいれられる。送り返される教材は朱赤、店も赤字、何もかもまっ赤っ赤で足掻きが取れない。ほかにスクールでは、お客が何を思い、望んでいるのか初対面の一瞬でつかむのが大事だという。カウンターを挟んで目の前にいる男性が、クレームがきて困っているのか、昇進んで沸き返るばかりなのか長男誕生の喜びの夜か。

2007-11-24

[東北] 友人から届いた小説

酒屋のどの人も親切で酒の並べ方から手取り足取り教えてくれたのだった。平木の会社決済の件も詳しく教えてくれた。だが、小りんには、すぐに飲み込めるほどやさしいことではない。結局、匙を投げたらしく、酒屋は「洋酒スクール」で教えてもらってはどうかという。

2007-11-23

[東北] 友人から届いた小説

ところが、会社決済というのもあったのである。小りんは医療事務はできるが、会社決済の請求伝票の書き方さえ知らずに水車をはじめたのだから怒鳴られて当然だった。平木の言う通りに請求書を書いて送ったつもりがひどい書き間違いだったのだ。平謝りに謝って、帰ってもらった。

2007-11-22

[東北] 友人から届いた小説

三人の貸し切り状態のまま、夜は更けていった。神戸の南京町と横浜中華街を比べたり、小ゑんの手料理を大げさにほめてみたり、その後はゴルフの結果話で盛り上がった。佐久川はある会社の東京本社と神戸本社の営業部長を兼任していた。平木は神戸の営業部長で、佐久川が神戸にいるときは世話役というのかいつも一緒のようである。
斎田は神戸資材部の部長だという。佐久川は帰り際に、神戸にいるときはなるべく顔を出してあげよう、と小ゑんへ耳打ちをして喜ばせた。

2007-11-21

[東北] 友人から届いた小説

一瞬に相手を見抜くのではないかと思わせる強さだ。小りんは初対面なのに腹の底まで見透かされた気がして、ぐっと、詰まってしまった。「あ、あの、雪国生まれ、、、」「どこの,雪国?」「秋田、です」「そうか,秋田は一年のうちの半年近くは雪に埋もれるというからなあ。十一月に日焼けはおかしいかもしれん。、、、が、神戸はゴルフ場が近くて、殆ど年中ゴルフができるから、われわれにはいいところだよ」

2007-11-20

[東北] 友人から届いた小説

ほんのわずかの時間なのだろうが,すいぶん長い気がした。やがて,彼らはのしのしという足取りで入ってきて、カウンターに掛けた。四人ではなく、三人である。お尋ねの店はお休みだったんですか?それとなく訊くと「いやあ、この娘のほうがちょっといい、なんてー」真ん中の男性がにこにこと笑って答えた。

2007-11-19

[東北] 友人から届いた小説

小鈴が気をもんでいると、今夜の風は冷たいわぁ、と体を縮こませて戻ってきた。時間がかかったのは、途中で道を訊かれたためらしい。ゴルフ帰りと思わしき四人組に、ある店への道を尋ねられた。たまたま知っていたところのようで、詳しく教えることができてよかった、と小ゑんはタバコをしまいながら話す。

2007-11-18

[東北] 友人から届いた小説

「これ、ほれ薬です。よく効くんですよ」と、その人は言った。それを小りんの隣に立っている小ゑんのほうへ押やって、「きちんと飲むと、僕のことぜったい好きになります」そう続けた。いかがわしいやつと、胸のうちで斜に構えて見ていると、小ゑんが、「紹介するわ、わたくしの主治医、鳩野先生とおっしゃいます。こちらが,姉の小鈴です。ありがとう,先生。お忙しいのに、すみません」安心したような顔つきで教える。

2007-11-17

[東北] 友人から届いた小説

ほかに手立ても考えつかないままに,走り出してしまったのである。じきに思い知らされた。不動産屋社長のみる目は鋭かった。知人もいない三宮で、ノンバンクから借り入れた資金が底が見え出し,小りん、小ゑん、その夫の多田、三者三様の焦りと苛立ちで、それぞれの間がぎくしゃくし始めた。

2007-11-16

[東北] 友人から届いた小説

店の賃貸借契約を不動産と交わしていたときである。奥のデスクから見ていた不動産屋社長が口を挟み、「おのぼりさんに、向かへんで。二人、なんぼや?とうに四十は超しとるやろ。スナックいうて,甘うみたら、えらい目にあうで。泣きを見るのが落ちや。止めといたらええんとちゃうか。」しわがれた声で、やくざ映画そのままにどすを利かせた。

2007-11-15

[東北] 友人から届いた小説

そんな人を探す暇もない、と答えると、また後ろの席へ行き、ひそひそとやる。それこそ保証人もいない、どこの馬の骨とも知れないおばさんに、銀行が二つ返事で貸し出すはずもないのだが、このときの小りんはただもう必死な思い出食い下がっていた。

2007-11-14

[東北] 友人から届いた小説

けれど,借金は待ってくれないのである。始めるしかない。山から降りてくる風は、ホームによどんでまとわりつく。暑さのせいか、冷や汗なのか、体中がじっとり湿っていた。一、二度遊びに来たことはあったが。今日からはここでまったく違う生活が始まるのだ。自分できめたことなのに、怖じ気づき,身震いが走った。

2007-11-13

[東北] 友人から届いた小説

姉妹の両親は兼業農家で、たくわえどころか生活するのがやっとのはずで、無心などとんでもないことだ。とくに父親は、人に迷惑をかけるな,株と借金は殺されようともするな、これが口癖だった。そういう父親に知れる前に目鼻をつけなくてはと、自身のことでもないのに姉は焦った。

2007-11-12

[東北] 友人から届いた小説

口を真一文字に結び、腕組みをし、患者さんとにらみ合う事一分半、だっと電話へ走った先生は救急車を呼んだのだった。あの方は助かっただろうかと思っていたそのときいもうとからの電話が入った。

2007-11-11

[東北] 友人から届いた小説

小りんがまだ東京でクリニックの事務員をしていたころ、それは神戸へ来る二ヶ月ほど前のことだ。車車販売会社の営業マンをしていた妹の夫・多田昌男は、頼まれると嫌と言えない男で、保証した一家に蒸発された。

2007-11-10

[東北] 友人から届いた小説

出迎えの声に気圧されたのか、紳士が一人,おずおずと顔を覗かせる。「どうぞ、カウンターへ」「雨が上がって、よかったですね」紳士はドアのところに立ったままで、肩にかけていた鞄をするりとはずした。

2007-11-09

[東北] 友人から届いた小説

ふたりが、待つことのやりきれなさ、しんどさをかみしめる時間である。それにしても,静かだ。誰かが寄ってくれそうな気配はまったく感じられない。気配というか予感は以外と当たるものらしい。

2007-11-09

[東北] 友人から届いた小説

ふたりが、待つことのやりきれなさ、しんどさをかみしめる時間である。それにしても,静かだ。誰かが寄ってくれそうな気配はまったく感じられない。気配というか予感は以外と当たるものらしい。

2007-11-08

[東北] 友人から届いた小説

今夜も暇なんだろうなあ、水車と名づけたけれど、この水車、いつになったら回転しだすのだろう、、、と、小路をみやっていた。「お姉、いつまで外にいるの?」声をかけられて店の中へ戻ると、小ゑんは店内の照明を調節しているところだった。

2007-11-07

[東北] 友人から届いた小説

一方姉はといえば、結婚してからも仕事を続け、内へあまり目を向けなかったかもしれない。婚家先の敷地の中には庭をはさんで二棟の家が向かい合うように建っていた。その新しい方の一等が義兄夫婦のすまいなのだが、すでに舅をなくしていた姑はなぜか弟夫婦の住む家に居続ける。

2007-11-06

[東北] 友人から届いた小説

料理好きの小ゑんはそれなりに食べやすさ、味、彩を考えているようで、見た目より切り口をそろえて盛り付け、ラデッシュやトマトなどの食欲をそそる赤いものが間にそえられる。

2007-11-05

[東北] 友人から届いた小説

やれやれと言わんばかりの口ぶりながら、小ゑんは手を止めない。酒のつまみや腹の足しになるものを作っている最中である。

2007-11-03

[東北] 友人から届いた小説

いつか一つくらいは持てるようになるだろうか、多分夢のまた夢か、、、そう思いながらドアを引いた。からんころんとドアベルが迎えるように鳴った。

2007-11-02

[東北] 友人から届いた小説

小鈴の出勤はほぼ決まって夕方五時だが、店へ着くとすでにドアが半分ばかり開いている。早出の小ゑんが開けているのである。「いつどんなお客様が来てくれるかわからないのに、支度中のにおいがこもっていては、ムードも半減するでしょう?誰もそんな所で飲みたいとは思わないはずよ」

2007-11-02

[東北] 友人から届いた小説

小鈴の出勤はほぼ決まって夕方五時だが、店へ着くとすでにドアが半分ばかり開いている。早出の小ゑんが開けているのである。「いつどんなお客様が来てくれるかわからないのに、支度中のにおいがこもっていては、ムードも半減するでしょう?誰もそんな所で飲みたいとは思わないはずよ」

2007-11-01

[東北] 友人から届いた小説

いったい何がとれるのか、小りんは赤がいいのか黒がいいのかまったく御影石のことは知らない。けれど幅一メートルばかり、長さ六メートルほどの班紋の入った赤茶色のカウンターは、たしかにつやつやと輝いている。