2008-08-11

[東北] [成功第一課] [interush] 「冷たい握手」を重ねる電機業界の再編

シャープとソニーが大型液晶パネル・モジュールの生産および販売を行う合弁会社を設立。
握手を交わす
片山幹雄・シャープ社長(右)と
中鉢良治・ソニー社長=
2008年2月26日、東京・港区のグランドプリンスホテル新高輪 金屏風(びょうぶ)をバックに立つ“昨日の敵”の社長同士が、笑顔でフラッシュを浴びながら何度も交わされる握手。
電機業界では見慣れた光景になった業務提携の発表だが、一体どこまでが本気なのかわからない。
ソニーとシャープ、シャープとパイオニア、パイオニアと松下電器産業、さらに松下と日立製作所とキヤノン…。
世界をリードしてきた日本の電機メーカーは提携や統合といった経営戦略を駆使し、淘汰の荒波を乗り越えようともがく。
そこで交わされる握手には、信頼よりも打算や他社への牽制の意味を込めた「冷たい握手」が混じっている。
■固い表情今年2月、
ソニーとシャープが発表した液晶テレビ用パネルを共同生産する業務提携のニュースは、
日本の家電業界を震かんさせた。
世界のエレクトロニクスメーカーの頂点に立つソニーが、液晶の雄として急速に台頭してきたシャープに対し、

2009年度稼働の新工場に出資して液晶パネルの供給を受ける。
まさに「テレビ業界の地殻変動を象徴する」(業界関係者)再編劇なのだ。だが、晴れの記者発表のひな壇に立つソニーの中鉢良治社長とシャープの片山幹雄社長は、終盤の報道向けフォトセッション(写真撮影)で見せた笑顔の握手の場面を除き、
終始固い表情を崩さなかった。

「新工場の安定操業へ向け、ソニーは心強いパートナーだ」(片山社長)。

「世界一のテレビメーカーを目指す上で、非常に重要なステップになる」(中鉢社長)。

両社トップの口からは、提携の意義を強調することばがポンポンと飛び出した。
約3800億円が投入される堺市の新工場は、3メートル四方の巨大なガラス基板を使う「第10世代」と呼ばれる最新鋭工場となる。
ガラス基板が大きければ、多数のテレビ用パネルが切り出せ、製造コストを下げられる。
薄型テレビは年20〜30%ペースで価格が下落し、

コスト削減は至上命題だ。
安価な大型パネルを安定調達できるソニー。

外販の「大口顧客」を取り込み、新工場の高稼働率を確保できるシャープ。
相互補完のメリットを考えれば、理想的な提携関係にみえる。
だが、記者発表で両社トップは互いに目を合わせることも少なく、「ぎこちなさ」が残った。

量販店の店頭では、
「ブラビア」と「アクオス」の激しいシェア争いがこの瞬間も繰り広げられているのだから、当然かもしれない。
ただ、“昨日の敵”と過去のわだかまりを捨てて信頼関係を構築するのが
「熱い握手」なら、
ライバル同士が打算でつきあう関係は「冷たい握手」。
両社の関係は一体どちらなのか。
■笑顔の提携

この提携からさかのぼること約2カ月。

シャープの片山社長は、東芝と業務提携を結んでいた。液晶テレビ事業の採算に苦しむ東芝は、シャープから液晶テレビ用パネルを調達。
一方で東芝は得意とする半導体で、
テレビ用LSI(大規模集積回路)をシャープに供給する内容だ。
「シャープの液晶に東芝の半導体を組み合わせれば鬼に金棒だ」。
東芝・西田厚聡社長は記者発表の席で、満面の笑みを浮かべた。
片山社長も「東芝のLSIでテレビの競争力が高まる」と機嫌良く応じ、製品を相互供給する提携の「戦略性」を強調した。
片山社長の表情をみれば、シャープの提携のもつ意味がソニーと東芝の間で異なるのは明らかだ。背景には、ものづくりの技術をめぐる“しこり”もある。
それは「シャープ-東芝提携」から、さらに3カ月前のことだった。
千葉市の幕張メッセで開かれた日本最大のエレクトロニクス展示会「シーテック」で、テレビの薄型化が大きな話題を集めていた。
展示場の主役は、「次世代の超薄型テレビ」で先陣を切った
ソニーの有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)となるはずだった。
しかし、ソニー製(11型)の画面の厚さ3ミリに対し、シャープは厚さ2・88ミリと小差で勝る液晶ディスプレー(12型)を出品、
対抗心を剥き出しにした。「液晶の次世代技術は、やはり液晶です」。シャープ首脳陣は、ことあるごとにそう話してきた。ただ、「ソニーの技術力復活の象徴」となる有機ELテレビの披露の場をつぶしたシャープに対し、

ソニー首脳陣の心情はいかばかりだったか。
ブラウン管時代に一世を風靡(ふうび)したソニーも、薄型テレビ時代に入るやあっという間に往年の輝きが失われた。
代わって存在感を増してきたのが「液晶のシャープ」だった。ソニーの中鉢社長もシャープの片山社長も、ともに技術者出身。
自社技術には強いこだわりを持つライバル同士は、次世代技術の覇権争いを超えて、本当に信頼しあえるのか。

■危険な提携互いに大きなメリットがあれば、過去のわだかまりを超えて企業は提携に踏み切る。
だが、無理に飲み下した関係は、将来の離反や遠心力をも包含する。
提携や経営統合が、失敗に終わった例は珍しくない。
「日本ビクターと相乗効果を追求してきたが、体質的に相いれない部分があると実感していた」。
昨年7月、ビクターとAV(音響・映像機器)メーカーのケンウッドが経営統合の合意を発表した記者会見。
ビクターの親会社として会見に同席した松下電器産業の大坪文雄社長はそう切り出し、
M&A(企業の合併・買収)で相乗効果を求める経営戦略の難しさをにじませた。
創業者・松下幸之助時代に資本参加したビクターだが、「自社技術への誇り高さ」(松下関係者)から、長い時間をかけてもグループ内での融合は進まなかった。
そのビクターは今秋、ケンウッドと統合した新会社「JVC・ケンウッド・ホールディングス」としての再出発の道を歩む。
昨年から続く電機業界の再編では、薄型ディスプレーをめぐる動きが急だ。
「松下-日立製作所-キヤノン」連合の誕生は、
液晶テレビで先行するシャープとその提携関係への対抗軸であるのは明白だ。
さらに、プラズマテレビ陣営のパイオニアは昨秋資本提携したシャープとは別に、
今度はプラズマテレビでシャープのライバルである松下とも提携を強化し、業界関係者を唖然とさせた。
シャープと松下を両天秤にかける大胆な経営戦略だが、パイオニアの将来展望を開く保証はない。
減速する世界経済を背景に、携帯電話や半導体などさまざまな事業分野で再編の火だねは尽きない。特に有機ELテレビでは、先行するソニーを追って、
永遠のライバル・松下も事業化に動き出す。
有機EL時代の到来を控え、ソニーの戦略は単独路線か連合路線かが注目される一方で、ソニーに対抗する合従連衡の動きも十分に予想される。ただ、統合や資本参加を含む本格再編ともなれば、事業や技術の補完性だけでなく、
企業文化やトップ同士の相性、知的財産などの要素もからむ。さて、次の再編では、どんな「握手」が交わされるのか。
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